第1章
夫の涼介の浮気に気づいたその日、私は産後鬱を患った。
あの日を境に、いったい何度繰り返しただろう。私はまた、薬を飲み込んだ。
ベビーカーの中で、息子が怯えて泣きじゃくった。
親友の愛梨が半狂乱になって、私の口から薬を掻き出した。
涼介は私を抱きかかえて救急処置室に運び込み、後ろめたそうに誓った。
「小夜、お前が1日長く生きるごとに、願い事を1つ書いてくれ。
お前が元気になったその日に、全部叶えてやるから」
1000個目の願い事を書き終えた頃、病院から退院の知らせが届いた。
心を弾ませながら、私は予定より早く家に帰って、みんなを驚かせようとした。
けれど、以前掛けてあったはずのウェディングフォトは、見覚えのない写真の数々に置き換えられていた。
愛梨と、涼介と息子の家族写真。3人で旅行した時の写真。
最後の空いた枠には、ディズニーランドと書かれたタグが付いていた。
サブアカウントに切り替えて愛梨のインスタを開くと、一番上に出てきたのもディズニーの投稿だった。
【二人に付き添うのもこれが最後。生まれ変わったら、家族になれますように】
画面いっぱいに、惜しむようなコメントが並んでいた。
私たち3人の共通の友人もいれば、私の同僚もいた。
一番下のコメントは、涼介のものだった。
【愛梨、ありがとう。この3年間、俺が息をつける場所をくれたのはお前だった】
【もし来世があるなら、どうか俺の妻になってくれ】
震える指先で彼女のページを開くと、同じような投稿が1000件以上も並んでいた。
3年間、1000以上の昼と夜。
一度も欠かすことなく。
私は黙って、願い事ノートを取り出した。
最後の一文「あなたと永遠に一緒にいたい」を、「あなたの願いが叶いますように」に書き換えた。
来世を待つ必要なんてなかった。
愛梨は確かに、私よりずっと相応しい妻に、母親になれる。
だから涼介の願いを叶えるために、私が先に旅立つことにする。
第1話
私、黒木小夜(くろき さよ)は、3年前に隠しておいた薬を取り出し、一気に飲み干した。
薬が胃の中で焼けるように痛んだ。
それでも指は、勝手にコメント欄をスクロールし続けていた。
【可哀想に、またあの頭のおかしい女のところへ戻らなきゃいけないなんて。いっそあの時死なせておけばよかったのに】
このコメントは私が支援していた苦学生の森田陽菜(もりた ひな)だ。産後鬱と診断されたあの日、陽菜は泣きながら私に長生きしてほしいと言っていたのに。
【惜しかったね、ただ巡り合わせが悪かっただけ。愛梨と先に出会ってさえいたら、結婚してたのは絶対あんたたちの方だったのに】
このコメントは私の同僚の佐伯麻衣(さえき まい)だ。麻衣は結婚式でブーケを受け取って、満面の笑みで私と黒木涼介(くろき りょうすけ)はお似合いの2人だって褒めてくれたのに。
【大丈夫、どうせ同じ会社にいるんだから、いざとなったらみんなで口裏合わせてあげるから】
このコメントは私の大学時代のルームメイトの木下遥(きのした はるか)だ。
涼介が私に告白したあの夜、遥は目を赤くして、もし私を裏切ったらただじゃおかないからと彼に釘を刺していたのに。
目の奥が熱くじんわりと滲んだ。
なるほど、みんな知っていたのだ。それなのに、示し合わせたように私にだけ黙っていた。
幸せをぶち壊した、死んで当然の人間は、私の方だったってわけだ。
構うものか。
もうすぐ、みんなの願いが叶う。
……
玄関の外で、解錠音がピッと鳴った。
3人がスーツケースを引きながら、笑い合って中に入ってきた。
私と目が合った瞬間、涼介は眉根を寄せ、咎めるような声を上げた。
「小夜、俺が迎えに行くって言っただろ?一人で帰ってきて、何かあったらどうするんだ」
私は口を開きかけたが、それより先に涙が止まらなくなった。
涼介は慌てた様子で、駆け寄って私の涙を拭った。
「悪い。責めたかったわけじゃないんだ、泣かないでくれ」
背後から、親友の姫川愛梨(ひめかわ あいり)が私の息子・黒木朝陽(くろき あさひ)の手を引いて入ってきて、からかうように笑った。
「小夜、3年ぶりなのに、相変わらず泣き虫なんだね」
朝陽は愛梨の後ろに隠れながら、物珍しそうに私を見つめていた。
胸がずきりと痛んだ。
3年前はまだベビーカーに乗っていた赤ちゃんが、今はもう自分でランドセルを背負えるようになっている。
私は震える声を抑えて、しゃがみ込んで彼に両手を広げた。
「朝陽、こっちにおいで。ママに抱っこさせて」
朝陽はびくりと身を縮め、不安げに愛梨の服の裾を掴んだ。
「ママ、この人は誰?」
私は一瞬、言葉を失った。
涼介が優しい声で説明した。
「小夜、気にしないでくれ。この3年間、愛梨がずっと朝陽のそばにいてくれたから、呼び慣れちゃっただけなんだ。
どうせ愛梨も朝陽の名付け親みたいなものだったから、特に問題はないと思う」
そこで初めて、彼ら3人が揃いの親子コーデを着ていることに気づいた。
愛梨は困ったように両手を広げた。
「これ、幼稚園の宿題なのよ。家族で親子コーデを着て、写真を撮らなきゃいけなくて。
小夜がいなかったから、私が代わりに撮るしかなかったの。嫌なら脱いでくるけど」
愛梨の口調はあまりにも堂々としていた。もし私があのコメントを見ていなかったら、信じてしまうところだった。
私は胸の奥の苦さを飲み込んで、なんの指摘もしなかった。
「いいよ、その服似合ってるし。着てて」
私が以前のように取り乱さないのを見て、涼介は目元を少し緩ませ、私の頭を撫でた。
「小夜も物分かりが良くなったな。3年間の治療はちゃんと効果があったみたいだ。
ちょうどいい、お前の1000個の願い事、どんな内容か見せてくれよ」
第2話
涼介はちょうど私の願い事ノートに手を伸ばし、ページをめくろうとした。
私は慌てて彼の腕を掴んで制した。
「涼介、それは夜になってから開けて。サプライズにしたいの」
涼介は私の変化に気づかず、笑いながら願い事ノートをポケットにしまった。
「分かった、小夜の言う通りにするよ。
腹は減ったか?医者がまだ何も食べてないって言ってたから、先にラーメンでも茹でて腹の足しにしよう。
食べてから朝陽の誕生日を祝いに出かけよう」
愛梨が急いで後を追った。
「じゃあ私はタレを作るね。ちょうどいい機会だし、小夜に私の腕前を味わってもらおうかな」
朝陽がひょいひょいと跳ねるようにキッチンへ駆け込んでくる。
「僕、にんにく剥くの手伝う!」
3人はあっという間に楽しそうに笑い合いながらキッチンへ入っていった。
残された私は、その仲睦まじい背中を見つめていた。
まるで、本当の家族みたいだね。
私は苦笑した。
もういい。私が朝陽の誕生日を祝うのは、これで最後だ。
私が身を引けば、三人は本当の家族になれる。
胃の痛みが、また少し重くなった。私は部屋に入り、自分のものを整理し始めた。
涼介の浮気を目撃して以来、私は疑心暗鬼になっていた。
彼が浮気した日に青い服を着ていたから、家じゅうの青いものを全部燃やした。
部屋の物が少しでも位置を変えると、涙ながらに涼介を問い詰めたものだ。誰かを家に連れ込んだんじゃないかって。
けれど今、部屋の白い壁には、青い壁紙がびっしりと貼られていた。
棚の上の女性用パジャマも、愛梨のサイズに変わっていた。
私に関する物のすべてが、愛梨の好みの形に変わっていた。
ドアの外から愛梨の声が聞こえてきた。
「小夜、この前私の家賃の期限が切れちゃって、涼介が小夜の部屋に仮住まいさせてくれたの。
小夜の荷物は一番上の棚にあるから、探してみて」
私は答えなかった。ただ、洗面台の上に置かれた子猫の歯ブラシに視線を落とした。
それは、私と涼介がずっと使っていたペアのものだ。
愛梨は嘘をついている。
もし本当に「仮住まい」だと言うのなら、歯ブラシの毛先がこれほど外側に開いているはずがない。
まして、もう1本と同じ角度で同じコップに収まっているはずもない。
ふと、入院したあの日のことを思い出した。
愛梨は目を赤くして、私に誓ったのだ。
「小夜、安心して療養してね。
私が彼らのそばにいて、代わりに見ててあげるから」
愛梨は確かにそうした。
1000日以上の昼と夜を、愛梨は一度も欠かさずに私の代わりに彼らを見守り、私の代わりに、2人の生活を埋め尽くした。
心の底に残る苦さを飲み込んで、私は棚を開けて自分のものを整理した。
するとパソコンがピコンピコンと鳴り続けているのが目に入り、閉じようと手を伸ばしかけたが、画面に映った内容を見て、体が固まった。
【社長、本日のラブレターは既にAIで作成して、奥様のメールボックスにお送りしております】
病院に運び込まれたあの日から、冷え切った病室に閉じ込められる日々に耐えられなくなり、泣きわめいて退院を訴えた。
涼介は私をなだめるために、毎日1通、手紙を書くと約束した。
送られてくる手紙には、彼の後ろめたさと、尽きることのない愛情が綴られていた。
眠れない夜を何度も、その手紙を読み返しては過ごした。それが、私を少しずつ回復させる薬になっていた。
1000通以上のラブレター、1000回以上の涙。
そのすべてが、私を弄ぶための笑い話だったのだ。
胃が焼けるように痛んだ。
見慣れた息苦しさが押し寄せてきて、まるで喉を締め上げられているようだった。
私は無意識に机の上の果物ナイフを掴み、自分の手首を幾度か、迷いなく切りつけた。
血が腕を伝って零れ落ち、鮮烈な痛みが息苦しさを一瞬だけ塗りつぶした。
やがて、耳元で朝陽の泣き声が響き、私の手にしていたナイフを、誰かに奪い取られた。
涼介は乱暴に私をベッドに放り投げた。
慣れた手つきで、包帯を何重にも巻いて傷口を縛った。
我に返った。
涼介が私の顎を掴み上げ、後頭部がベッド板に押し付けられた。彼の両目は赤く血走り、落ちた涙が私の頬をかすめた。
「小夜、俺はお前の病気に3年間付き合ってきたんだぞ、それでも足りないのか?
そんなに俺を恨んでるのか、俺の顔を見て生きるのも嫌なくらいに?」
私は一瞬呆然として、無意識に手を上げて涼介の顔の涙を拭おうとした。
指の関節が涼介の胸をかすめ、彼の傷跡に触れた。
私が一番深く自傷したあの時、涼介は目を赤くしてナイフで自分の胸を刺したのだ。
「小夜、俺が悪かった。お前が死ぬなら、俺も一緒に逝ってやる」
死んだように凪いでいた心に、久しぶりに小さな波紋が広がった。
私は無意識に声を和らげた。
「涼介、実はさっき私……」
その時、ドアの外から、愛梨の悲鳴が聞こえた。
「大変、涼介、朝陽が血を見て倒れた!」
第3話
涼介は急に私を突き飛ばした。
私は力を振り絞って立ち上がり、外へ向かった。涼介が朝陽を抱き上げ、愛梨が慌てて車の鍵を取りに行くのが見えた。
反射的に手を伸ばして手伝おうとしたが、涼介に払いのけられた。
彼の苛立った声が耳元で弾けた。
「小夜、頼むからおとなしくしててくれ、これ以上邪魔しないでくれないか?」
私はよろけて後ずさり、テーブルにぶつかってラーメンをひっくり返した。
玄関の扉がバタンと閉まった。
私はうなだれた。
体にはラーメンの汁が飛び散っていた。
この3年の結婚生活そのままの、みじめな姿だった。
涼介の言う通りだ。私はただ邪魔をするだけの存在だ。
むしろ、世話をされるべき側の人間なのだろう。
まともな妻でもなければ、良い母親でもない。
私にふさわしくない場所なら、もっとふさわしい人に譲るべきだ。
私は服を着替え、自分のものを整理し終えた。
ポケットの中の御守りに触れて、朝陽の誕生日プレゼントをまだ渡していないことを思い出した。
先月、愛梨が電話でさりげなく口にしていた。
朝陽が、隣の席の子のママが編んでくれた御守りを羨ましがっていたという話を、私は心に留めていた。
その日から何度も夜通し作業をして、指に水ぶくれを2つも作り、ようやく、この御守りを編み上げた。
朝陽がそれを見て驚く姿を想像すると、心にほんの少し温かさが灯った。
私は御守りを懐に忍ばせ、急いで病院へ向かった。
看護師は、朝陽の病室が最上階にあると教えてくれた。
エレベーターを降りたところで、角の向こうから愛梨の泣き声混じりの声が聞こえてきた。
「涼介、私のお腹の子は産めないわ。小夜に知られたら、きっと彼女、おかしくなっちゃう」
私は思わず足を止めた。
愛梨の声はまだ続いていた。
「小夜の出産予定日にホテルへ行かなければ、小夜だってショックで産後鬱になんてならなかった……」
涼介は中絶同意書を引き裂き、彼女を壁に押し付けた。
「この3年間、俺たちはもう十分小夜に償ってきた!もううんざりなんだ。
愛梨、俺はお前を愛してる。子供を産んでくれ、俺が育てる」
頭の中で轟音が鳴り響いた。
出産予定日のあの日、私のスマホに涼介からホテルの予約メッセージが届いた。
私は狂ったようにそこへ駆けつけ、ホテル中をひっくり返して探したが、あの女の痕跡は見つからなかった。
それ以来、私はどんどん神経質になっていった。
そんな私に駆けつけてくれたのは愛梨だった。涼介を私の前で3日3晩も跪かせ、さらに私のそばに付き添って、幾晩も一緒に耐え抜いてくれた。
私は泣きながら、愛梨のような良い親友がいてよかったと言った。
けれど、愛梨の目の奥には、当時の私には理解できなかった感情が一瞬よぎっていた。
あの感情の正体は、後ろめたさで、罪悪感で――
そして、憐れみだった。
私は全身を震わせ、駆け出して2人を問い詰めようとしたが、背後から誰かに強く引っ張られ、私はよろけて地面に倒れ込んだ。
朝陽の小さな手が必死に私の口を塞ぎ、その声は小さく、それでいて切迫していた。
「ごめんね、おばさん。でも、ママが言ってたんだ。ママのたった1つの願いは、僕に妹を産んであげることだって。
ママの願いを、おばさんに壊させるわけにはいかないんだ!」
全身の激痛に、私は意識が遠くなっていくのを感じた。
ただ、涼介が愛梨の唇に深く口づけるのを、なすすべもなく見ているしかなかった。
熱く、深く。
視界に映る光が涙を透過して、少しずつ滲んでいった。
再び目を開けた時、私は病室のベッドに横たわっていた。
第4話
涼介はベッドの脇に立っていたが、その表情に同情の色はなかった。
あるのはただ、失望だけだった。
「小夜、検査の結果はなんともなかったんだろう。いったい何のつもりで、あんな真似をしたんだ。
ちょっときつく言っただけだろう。今日は朝陽の誕生日だったのに、わざわざあいつの前で倒れたふりをして怖がらせる必要があったのか?
お前がこんな風になるとわかっていたら、俺は最初から結婚なんてしなかった!」
検査結果の紙が私の顔に投げつけられ、ひりひりと痛んだ。
紙に書かれた数値は、これ以上ないくらい偽物だった。
だが顔を上げて涼介の嫌悪に満ちた目と合った瞬間、喉まで出かかった弁解の言葉を飲み込んだ。
もういい、このままでいい。
同情なんていらない、憐れみもいらない。
おめでとう、涼介。あなたの願いは、もうすぐ叶う。
少し言葉が過ぎたと気づいたのか、涼介の口調が幾分か和らいだ。
「もういい、少し一人で頭を冷やせ。
俺は先に朝陽とケーキを切ってくる。あとで迎えに来るから」
そう言うと、涼介は振り返りもせずに病室を出て行った。
ポケットの中で、まだ渡せずにいた御守りに触れ、私は慌てて後を追った。
けれど涼介が隣の病室に入っていくのが見え、大きな音を立てて扉が閉まった。
反射的に前に出て扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。
窓越しに、愛梨が朝陽に誕生日の帽子をかぶせているのが見えた。
涼介がクラッカーの紐を引くと、パンという音とともに、朝陽は舞い散るテープの中で目を閉じ、3つの願い事を唱えた。
「1つ目の願いごとは、パパのお仕事がうまくいって、パパがいつも元気でいられますように。
2つ目の願いごとは、ママがもっともっと綺麗になって、ずっと若々しくいられますように。
3つ目の願いごとは、ママのお腹の赤ちゃんが元気に大きくなって、みんなでずっと一緒にいられますように」
ろうそくの火が吹き消された。
私の心の中に残っていた最後の光も、それと一緒に消えた。
スマホがピコンと無機質な音を立て、愛梨からのメッセージが画面に浮かんだ。
【あなたが扉の外にいるのは知ってるわ。さっきの話も全部聞こえてたんでしょう】
【正直に言うわね。3年前、あのホテル予約のメッセージを送ったのは私。今回の検査結果を書き換えたのも私】
【小夜、他人の感情なんて無理強いできないものよ。あなたたちが夫婦として連れ添った5年よりも、私たちが共に過ごした4年の方がずっと濃密だった。結果がすべてを物語っているでしょう?勝ったのは私よ】
確かに、愛梨の勝ちだった。
涼介の心も、朝陽からの愛情も、すべて彼女に奪い去られた。
残されたのは私一人。何もかも失った。
五臓六腑が焼けつくように痛んだ。
私は力を振り絞って御守りを引きちぎり、ゴミ箱に投げ捨てた。
だったら――
あの3人の願いを、この命で叶えてあげよう。
……
最後の一切れのケーキが残っていた。
涼介はそれを丁寧に包んで、小夜の病室へ向かった。
だが、中には誰もいなかった。
涼介は眉をひそめ、スマホを取り出して電話をかけようとした。
その拍子に、ポケットから願い事ノートが一緒に滑り落ちた。
涼介はそれを拾い上げて開くと、最後の1行、書き換えられた清らかな文字に目を落とした。
【涼介、あなたの願いが叶いますように】
涼介の指先が震え、心の底から不安がこみ上げた。
震える手で、小夜に9回電話をかけたが、繋がらなかった。
10回目をかけようとした、その時。
向こうから折り返しの電話がかかってきた。
電話に出た涼介が、怒りをぶつける間もなく、聞き覚えのない男の声が響いた。
「黒木様のお電話でよろしいでしょうか。
奥様が先ほど亡くなられました。至急、火葬場までお越しいただき、ご署名をお願いいたします……」