学部一の美女に「たかり女」疑惑をバラされた?

プロモーションを読み込み中...

学部一の美女に「たかり女」疑惑をバラされた?

GoodNovel 完結

十傑認定式の壇上に立った、その瞬間だった。 大スクリーンが、ふっと真っ暗になった。 次の瞬間、目を疑うようなトーク画面のスクショが、次々と映し出されていく。 会場を埋めた2000人の教職員と学生が、どよめいた。 映し出されたスクショのメッセージの送信者は私。受信者は最前列に座る、金融学部3年の九条蒼真(くじょう そうま)。彼は学内一の秀才で、学内一のイケメンだ。 スクショに並ぶのは、全部私が送ったメッセージだった。 【お金ない。10万円振り込んで】 【今夜そっちのマンション泊まるから、鍵開けといて】 【お金くれないなら毎日つきまとうから。社会的に終わらせてやるんだからね】 学部一の美女が、マイクを握って壇上に駆け上がってくる。そのまま私を指差し、声を張り上げた。 「皆さん、ご覧ください!桜井望(さくらい のぞみ)は清楚な優等生なんかじゃありません。お金のために九条先輩にしつこくつきまとって脅していた、たかり女です! こんな恥知らずが特待生の中でも特別な『十傑』に表彰されるなんて、絶対おかしいです!」 客席から突き刺さる、無数の軽蔑の視線。学校側の先生方の顔色は、真っ青だった。 学部一の美女が、勝ち誇った顔で私を見る。 「桜井さん。九条先輩は優しいから警察には言わないみたいだけど、今日この場で、ちゃんと反省してもらわないと」 画面に映る「たかり」の記録を見つめながら、私は思わず額に手を当てた。 本気なの? 蒼真は、おばあちゃんが歳を取ってから授かった、私の実の叔父だよ。 実の叔父のところにご飯をご馳走してもらいに行って、お小遣いをねだっていただけ。 それのどこが、恥知らずなたかり女なわけ?

チャプター (1)

第1章

十傑認定式の壇上に立った、その瞬間だった。 大スクリーンが、ふっと真っ暗になった。 次の瞬間、目を疑うようなトーク画面のスクショが、次々と映し出されていく。 会場を埋めた2000人の教職員と学生が、どよめいた。 映し出されたスクショのメッセージの送信者は私。受信者は最前列に座る、金融学部3年の九条蒼真(くじょう そうま)。彼は学内一の秀才で、学内一のイケメンだ。 スクショに並ぶのは、全部私が送ったメッセージだった。 【お金ない。10万円振り込んで】 【今夜そっちのマンション泊まるから、鍵開けといて】 【お金くれないなら毎日つきまとうから。社会的に終わらせてやるんだからね】 学部一の美女が、マイクを握って壇上に駆け上がってくる。そのまま私を指差し、声を張り上げた。 「皆さん、ご覧ください!桜井望(さくらい のぞみ)は清楚な優等生なんかじゃありません。お金のために九条先輩にしつこくつきまとって脅していた、たかり女です! こんな恥知らずが特待生の中でも特別な『十傑』に表彰されるなんて、絶対おかしいです!」 客席から突き刺さる、無数の軽蔑の視線。学校側の先生方の顔色は、真っ青だった。 学部一の美女が、勝ち誇った顔で私を見る。 「桜井さん。九条先輩は優しいから警察には言わないみたいだけど、今日この場で、ちゃんと反省してもらわないと」 画面に映る「たかり」の記録を見つめながら、私は思わず額に手を当てた。 本気なの? 蒼真は、おばあちゃんが歳を取ってから授かった、私の実の叔父だよ。 実の叔父のところにご飯をご馳走してもらいに行って、お小遣いをねだっていただけ。 それのどこが、恥知らずなたかり女なわけ? 第1話 九条蒼真は、私の実の叔父だ。 このことを、学校の誰も知らない。 別に、わざと隠していたわけじゃない。 入学初日、蒼真に図書館の前で呼び止められて、無表情のままルールを言い渡された。 「学校では叔父さんと呼ぶな。親戚だってことも、誰にも言うな」 「なんで?」 「俺、まだ大学3年だぞ。叔父さん呼ばわりされたら、何に見える」 「年上の親戚」 「お前のおばあちゃんに言っとけ。20年早く産んでくれって」 言うだけ言って、蒼真はさっさと背を向けて歩き出した。 私は慌てて呼び止めた。 「じゃあご飯代なくなったらどうするの?」 振り返りもせず、銀行のカードが一枚飛んできた。 「LINEしろ。使い切ったら言え」 それ以来、学校では赤の他人として振る舞った。 蒼真は金融学科のトップで、成績も優秀、しかも顔もいい。学内一のイケメンとして通っていた。 一方の私は新聞学科の1年で、全く存在感のない、その他大勢のうちの一人だった。 だから私たちを結びつけて考える人間なんて、誰一人いなかった。 学部一の美女、桜小路美月(さくらこうじ みづき)が蒼真に惚れるまでは。 美月は、どこからか私と蒼真のLINEのやり取りを掘り当てていた。 おそらく、コンテストの期間中にスマホを預けていた隙を突いて、誰かに中を見せてもらったんだろう。 蒼真が毎月私に送金していること。私が数日おきにマンションへ出入りしていること。彼のカードでスーパーの牛乳を3箱まとめ買いしたことまで、しっかり握っていた。 だが、私たちの本当の関係までは知らない。 知ろうともしていない。 1年の女子が学内一のイケメンのマンションに何度も出入りして、しかも金まで使っている。それだけで、美月にとっては十分すぎる証拠だった。 認定式は、強制的に中止になった。 私はそのまま学校側に呼び出され、職員室送りになった。 隣の担当教員の田村恵子(たむら けいこ)は、チョークの粉を丸ごと一箱飲み込んだような顔をしていた。 「桜井さん。このやり取りについて説明してもらえますか」 「家族との、普通の会話です」 私がそう答えると、恵子は眉をひそめた。 「家族?九条くんの家族情報に、あなたの名前はありませんけど」 「彼は、私の……」 「彼氏だとでも言うつもりですか?」 いつの間にか職員室に入り込んでいた美月が、目を赤くしたまま椅子に座った。 「先生。彼女、前から九条先輩と自分は特別な関係だって周りに言いふらしてたんです。何度も止めたのに、聞かなくて」 恵子が美月を見て、それから私を見た。 「桜井さん。桜小路さんは学生自治会の副会長です。あなたを陥れる理由なんてありません。 まず今日は戻って、状況説明書を書いてきてください。 特待生資格は、当面凍結とします」 私は言い返そうと口を開きかけた。 「彼女だからこそ、陥れる理由があるのだ」と。 だが、職員室のドアはもう美月の手で親切にも開けられていた。 体を横にずらして道を空けながら、美月が小声で言う。 「私は後輩を目の敵にしてるわけじゃないの。ただ、こういう事は、はっきりさせたほうがいいと思って」 美月の学年は私よりひとつ上だ。その口ぶりは、裁判所の召喚状みたいにあくまで淡々と、そして残酷に響いた。 職員室を出た時には、スマホはもう鳴りっぱなしだった。 私についての話題が学内掲示板の話題投稿ランキング堂々の1位になっていた。 【十傑のうちの一人である特待生の正体は、学内一のイケメンに寄生するたかり女だった!トーク履歴流出!】 続けて一番評価の高いコメントを読む。 【道理でいつも身なりよかったわけね。そうやって稼いでたんだ】 自分の羽織っていた上着を見下ろす。蒼真がサイズが大きいと言って押し付けてきたやつだ。着ると太って見えるらしい。 身長187センチ、体脂肪率10パーセントの男に、太って見えると言われた。 私のおばあちゃんは蒼真を産んだ時、彼の脳みそを分娩室に忘れてきたに違いない。 蒼真にLINEを送った。 【叔父さん大変、あんたに惚れてる子が私たちのやり取りを十傑認定式でのスクリーンに晒した】 送信をしたが、いつまで経っても既読がつかず、どうやらブロックされたようだった。 蒼真はコンテストの期間中、スマホを預けたまま。今はこの世から消えたも同然だった。 いいだろう。 叔父とは連絡が取れず、姪は社会的に終わった。 この家族の行く末は、もうおしまいだ。 第2話 翌朝早く、寮の私の部屋のドアにA4紙が貼られていた。 【自覚を持って九条先輩から離れてください。これ以上新聞学科の恥を晒さないで】 差出人は【新聞学科女子一同】。 私はその紙を剥がして、裏返した。 裏は白紙だった。 ちょうどいい、メモ用紙にしよう。 午前の授業、私は階段教室の一番後ろの列に座った。 前にいたクラスメートたちが、申し合わせたように3列前に移動した。 まるで私から放射線でも出ているみたいに。 美月の取り巻き、小森茉莉(こもり まり)がわざわざ私の隣まで回り込んできて、机の上にミルクティーを置いた。 「美月先輩がミルクティー、ご馳走するって」 「いらない」 「それに――」 茉莉は声を潜めた。 「今日中に掲示板に謝罪文を上げれば、炎上を鎮めるのに協力してくれるって」 「何を謝れって?」 「九条先輩に対するあなたの行いが、不適切だったって認めること」 「普通の身内付き合いのどこが不適切なの?」 茉莉はため息をついた。 「あのやり取り、もう全校学生に晒されてるんだよ? 今さら何を言っても、誰も信じないよ。 素直に頭を下げたほうがいいって」 私はミルクティーを押し返した。 「頭を下げるのはいいよ。 その前に、私の十傑の座を返してから言って」 茉莉はミルクティーを持って去っていった。 昼、食堂に行くと、学生証をかざした端末に残高不足の表示が出た。 蒼真の銀行カードは、美月に「証拠」として学生自治会に提出されてしまっている。 自分名義の口座には、あと940円しか残っていない。 今月はまだ19日ある。 一日あたり平均50円。 私は茶碗に盛った白米だけを持って、隅の席に座った。 ルームメイトの早坂夕奈(はやさか ゆうな)が、自分のおかずを半分こっちに押し出してきた。生活費を使い果たしておかずが買えないんだと思っているらしい。 もっとも、事実その通りだった。 「私の食べていいよ」 「いい、ダイエット中だから」 「45キロしかないのに、何を痩せるの?」 「風に吹き飛ばされるくらい痩せれば、この学校とはもう無関係でいられるじゃない」 午後、学生自治会室にカードを取り返しに行くと、美月は書類を整理しているところだった。 美月は顔を上げて私を見たが、表情ひとつ変えなかった。 「カードは、今は渡せない」 「あれは私の生活費なんだけど」 「名義は九条蒼真になってる」 美月は銀行カードを掲げてみせた。 「本人が確認するまでは、あなたに渡すわけにはいかない」 「だったら、あなたたちが預かる権利もないでしょ」 美月はカードを引き出しにしまった。 「これは九条先輩の資産を守るためよ。 もしあなたが本当に、彼を脅していたとしたら?」 美月の声は、教科書でも読み上げているみたいに落ち着いていた。まるで彼女のほうが被害者で、私のほうが、警戒すべき危険人物みたいだった。 私は手を伸ばして引き出しを開けようとしたが、美月がその手を押さえつけた。 「カードを奪う気?ドアの外に学生自治会役員が3人いる。 今ここで手を出したら、明日には処分が下るよ」 私は手を引いた。 美月の爪が、手の甲に赤い跡を残していた。 「九条先輩は明後日、コンテストが終わって学校に戻ってくる。 そのとき、本人にこのカードを自分に渡したのかを問いただせばいい。 もし彼が、これは確かにあなたに渡したカードだと言うなら、文句なく返すわ」 美月は微笑んでドアを手で示した。 「でも、もし違ったら…… 今学期のあなたの表彰資格は、すべて取り消すよう提案するから」 学生自治会室を出て、廊下で手の甲の赤い跡を見つめた。 美月が私の手を押さえつけたとき、ドアの外にいた役員3人全員がそれを見ていた。 それをおかしいと思った人間は、ひとりもいなかった。 彼らの目には、私はたかり女に映っているのだから。 不当な悪を制圧する――そんな歪んだ正義感のもと、彼女の暴力は、当然の制裁として正当化された。 私はスマホの連絡先を片っ端から見返した。 両親は海外出張中で、時差は12時間。 おばあちゃんはスマホの使い方がわからない。 蒼真とは、相変わらず連絡が取れないままだった。 掲示板にまた新しい投稿が上がっていた。 【徹底調査・たかり女の桜井望:1年生のうちから先輩のカードでブランド品を購入?自宅マンションへの長期出入りの疑惑も】 添えられていた写真は、先週末、蒼真が「もういらない」と押し付けてきたあのコートを着て、彼のマンションから出てくる私の姿だった。 撮影角度は狙ったように悪く、照明も薄暗い。 たしかに、深夜に高級マンションへ出入りする金目当ての女に見えなくもなかった。 コメント欄の最新の一件―― 【こんな人間を退学にしないなんて、学校の風紀はどうなってるの?】 私はスマホの画面を消した。 おばあちゃんは先月、電話で蒼真にこう念を押していた。「望の面倒をしっかり見てやって」と。 蒼真の返事は、やけに威勢が良いものだった。 「安心して、母さん。俺はあの子を実の娘かのように面倒見るから」 その「実の娘」は今、昼飯代にも困り、カードは取り上げられ、評判はズタズタになっている。 叔父さん、ずいぶんと面倒見がいいこと。 第3話 3日目は金曜日だった。 学校では毎週金曜の昼、広場で『学生の声』という催しが開かれる。誰でも壇上に立って発言できるイベントだ。 私はこの機会を借りて、真相をはっきりさせるつもりでいた。 ところが朝、教室に着くと、席に一通の封筒が置かれていた。 学部の公印が押された、正式な通知書だった。 【桜井望さんの今学期表彰資格取り消しに関する通知】 【理由:重大な品行上の疑義があり、学生自治会からの申し立てにより、一切の表彰資格を停止する】 発行日は昨日付だった。 美月の仕事の速さは、出前よりも速いようだ。 申し立てから処分まで、24時間もかかっていない。 私は通知書を持って担当教員の恵子のところへ向かった。 恵子は朝ごはんを食べている最中だった。 「桜井さん、今回の件ですが……注目を集めすぎているようですね。 学校側としましても、これ以上世論の的になるのを抑えるためなんです。 九条くんが戻って詳細がはっきりすれば、表彰資格の回復に向けて検討の余地もあります……まずは、事態が沈静化するのを待ちましょう」 「彼が戻るのは明日なのに、私は今日という日のうちに処分されているんです」 「手続き上は問題ありません」 「手続き上?それならお聞きしますが、学生自治会に個人の銀行カードを差し押さえる権限があるんですか?」 「それは……まず学生自治会と話し合ってください」 世論の前では、「手続き」なんて声の大きい者にとっての都合のいい形に、粘土のように形を変えられるものだ。 昼休みになり、私は広場に向かい発言の申し込みに行った。 だが美月が先回りして、「学生の声」の申込用紙に細工をしており、私の名前は線が引かれて消されていた。 それだけではなく、私の名前の横にはこう書き添えてあった。 【当該学生は現在品行上の疑義があり、公の場での発言は不適切】 私は広場の端に立って、壇上で演説する美月を見ていた。 「私たちは、不当な付きまといには勇気を持ってノーと言うべきです。 誰にでも、不当な嫌がらせを拒否する権利があります」 客席から盛大な拍手が起こった。 誰かがこちらに目をやり、ひそひそと囁き合った。 美月が私に気づいた。 マイクに向かって、微かに笑ってみせる。 「もちろん、過ちを犯した学生にも、改める機会は与えるべきだと思います。 誰かさんには、自分の行いを本当の意味で反省していただきたいですね」 その視線が、まっすぐ私に落ちた。 その視線を追うように、周囲にいた人々の目が一斉にこちらへ向けられる。 私は日差しの下に立っていたのに、まるで裁きの壇上にいるようだった。 夕奈が私の袖を引いて、その場から連れ出そうとした。 「ここにいちゃだめ、わざとやってるんだから」 私はその手を振りほどいた。 「ね、写真、撮って」 「何の?」 「広場の申込用紙。私の名前が消されてるやつ」 夕奈は写真を撮って送ってくれた。 私はその写真を保存してから、教務課にも足を運んだ。 教務課の職員によれば、表彰資格の取り消しには教授会での審議が必要だという。 だが昨日、教授会は開かれていなかった。 つまり、あの通知書の手続きは不備があるということだ。 だが職員はこう付け加えた。 「学部側は、来週月曜に追加で会議を開いて、正式に決定するそうです」 「会議は月曜なのに、通知書はもう昨日届いているんですか?」 「先に通知して、手続きは後から整えるんです。特殊な事情ですから」 特殊な事情。 訳せばこうだ。先に処分しておいて、手続きは後からでっち上げる。 教務課を出ると、また茉莉が現れた。 印刷済みの謝罪文を差し出してくる。 「美月先輩が、今日中に掲示板に上げれば、表彰資格の処分を撤回してくれるって」 私は受け取って、目を通した。 全文800字。要となる段落はこうだ。 【私は長期にわたり、不適切な方法で九条蒼真先輩につきまとい、彼の学業と生活に重大な支障をきたしたことを認めます。 自分の過ちを深く反省しております】 私はその紙を折りたたんで、ポケットにしまった。 茉莉がほっと息をついた。 「じゃあ、今夜あげるの?」 「あげない」 「じゃあ何のために持ってるの?」 「記念に取っておくだけ」 「これ、美月先輩が徹夜で人に書かせたものなのに……」 「文章はうまいね」 私は少し間を置いた。 「でも、やってもいないことは、一字だって認めるつもりはない」 茉莉の顔色が変わり、スマホを取り出してメッセージを送った。 10秒後、美月から届いた返信の内容は私にもはっきりと見えた。 【それなら仕方ないね。明日九条先輩が戻ったら、彼女のことなんて知らないって、本人の口から全校学生の前で言ってもらうから】 私はその文字列を数秒間見つめた。 知らない? 明日、もし蒼真が本当にそんなことを言ったら、おばあちゃんに電話をかけてやるんだから。 蒼真が社会的に終わるのが先か、それともおばあちゃんのスリッパが先に飛んでくるのが先か、見ものなものだ。 第4話 土曜日の午後2時。 金融学科コンテストチームの送迎バスが、学校に到着した。 知らせは学内ネットより速く校内に広がり、10分後には、広場に200人以上が集まっていた。 美月は白いワンピースを着て、花束を抱えたまま群集の一番前に立っていた。 背後には、学生自治会が用意した横断幕が掲げられている。 【金融学科コンテストチームの凱旋を、心より歓迎いたします!】 見た目だけは完璧に整っていた。 私は広場の外側の階段に立っていた。 誰かが私を撮っている。 スマホを掲げてライブ配信している人もいた。 コメントには、大方【たかり女が来たぞ】とでも書かれている。 蒼真は3番目にバスを降りてきた。 リュックを肩にかけ、チームウェアの袖を肘までまくっている。 美月がすぐさま駆け寄った。 「九条先輩、受賞おめでとうございます!」 美月は花を差し出しながら、当然のように蒼真の隣に並んだ。 「この数日、九条先輩がいない間に、学校でちょっとした騒ぎがあったんです。 でも、もう全部片づけておきましたから」 美月はスマホを取り出すと、掲示板の投稿を蒼真に見せた。 「1年生の後輩が、ずっと九条先輩の銀行カードを使ってたんです。 しかも、九条先輩と特別な関係だってあちこちで言い触らして。 チャットでのやり取りも、全部流出してます」 美月は画面をスクロールした。 「見てください、10万円振り込ませて、マンションに泊まりに行くとまで言って、九条先輩を社会的に葬ろうとしてたんですよ。 九条先輩の銀行カードは回収しておきましたし、学部にも彼女の表彰資格を取り消してもらいました。 安心してください。もう二度と、九条先輩に付きまとったりできないようにしましたから」 美月は大きく息を吸い、顔を上げた。その目はいかにも真剣そうだった。 「九条先輩、ちょうどいい機会ですから、今日はっきりさせておきましょう。誤解されて、九条先輩の名誉に傷がつくといけませんから」 広場が一瞬、静まり返った。 全員の視線が蒼真に集まった。 蒼真は顔を上げ、美月の向こうを見据えるように、人垣の外側へまっすぐ視線を投げ、私を見た。 200人以上を隔てて、私は蒼真と目が合った。 普段は波風の一切立たないような蒼真の表情が、困惑へと変わっていく。 それから視線が下がり、私の手の甲に残ったかさぶたの痕で止まった。 血の気の引いた唇と、一回り痩せた顔にも気づいたらしい。 蒼真の目の色が、少しずつ暗くなっていく。 最後にたどり着いたのは、私がよく知っているあの表情だった。 前にこの顔をしたのは、おばあちゃんが彼が内緒で猫を飼っているのに気づいて、スリッパ片手に彼を延々と追いかけ回したときだ。 誰かが痛い目を見ることになりそうだわ。 美月は蒼真の視線を追って振り返り、私を見つけると、口の端を上げた。 美月は蒼真の腕を引き、群集のほうを向いて、優しくもよく通る声で言った。 「九条先輩、みんなの前ではっきり言ってあげてください。 あなたたちの間に、一体どういう関係があるのか」 その場にいた全員のスマホが、一斉に持ち上がった。 200以上のレンズが、私に向けられる。 配信の視聴者数が、一気に5000人を超えた。 蒼真は花束を隣にいたチームメイトに押しつけた。そのまま人垣をかき分けて、こちらへ歩いてくる。 美月がその後ろをついてきながら、声を張り上げた。 「九条先輩、恥ずかしがらなくていいですよ。 あんなに長くつきまとわれてたんです。みんなに本当のことを知ってもらうべきです」 蒼真が私の前まで来た。 蒼真は手を伸ばして私の手の甲を返し、その赤い跡をじっと見た。 「誰にやられた?」 後ろに立っていた美月は、蒼真が私の責任を問い詰めているのだと思い込み、内心色めき立って、急いで手柄を主張しに出てきた。 「九条先輩、気にしないでください。学内の風紀を守るのは私の責任ですし、ましてやつきまとわれていたのが九条先輩なんですから……」 言い終わらないうちに、耳まで真っ赤になって、恥ずかしそうにうつむいた。 広場中の人間が、耳をそばだてた。 蒼真は私の手を放すと、振り返って美月を見た。 その表情は、冬の空気のように冷たかった。 「お前は今、彼女が俺につきまとってたと言ったのか?」 美月は力強く頷いた。 蒼真は広場を埋め尽くす人だかりと、掲げられたスマホの群れをぐるりと見回し、無表情のまま口を開く。 「望は……俺の実の姪だ。カードの金は……俺が無理やり押しつけて、使ってくれって頼んだものだ。 お前は何様のつもりで、うちの家計に口を出してる?」

More GoodNovel Novels